(2015年2月19日加筆修正)

このテキストは私が過去にギターのチューニングについて書いた4つのテキストをまとめたもの。
オープンチューニングの探求のヒントになるかもしれません。
良かったらご覧ください。

チューニングは本当に大事だ。
レギュラーチューニングを使っていた時は、そこまでシビアではなかったけれど、
オープンチューニングを使う様になってからは、明らかに意識が変わった。
ここでオープンチューニングのことを説明しておくと、弦を押さえない状態でも和音がなる様なチューニングのこと。
弦はお互いに共鳴し合うので(特にオクターブ、5度は)、ジャストにチューニングできていると、ひとつの弦だけを弾いてもお互いの弦が共鳴し合って倍音がとても豊かに鳴る。原理的には結合音(Combination Tone)、差音が作用しているのだろうと思う。(※この辺りは『音感覚論』ヘルムホルツに詳しい)
oto
一度そのジャストにチューニングされた状態を体験すると、ピッチのズレに対して敏感になる。
その響きだけで満たされる様な感覚があって、ピアノで言うとペダルを踏んだ様な響きだと思う。

ここで、私が使用している2種類のチューニングの説明をする。
EBF#BC#F#B、
というオープンB系 6弦をトニックにしたチューニング
EAEBEF#B
というオープンE系 7弦をトニックにしたチューニング
(※2014年12月以降はオープンB系、E系を使用する様になった。)

少しこのチューニングでギターを弾く様になった経緯を書いてみようと思う。

joni
私が学生の頃、Joni Mitchell『Chelsea Morning』(from album『Both Sides Now』)という曲を弾いていると、ギターのすごく巧い方が、これはオープンDで弾いてるんだよと僕のギターのチューニングを一瞬でチューニングした。今、思うとそれが出会い。

でもまあ、当時の僕はThe Beatlesを中心としたブリティッシュビートの音楽に夢中で、へーと思った位で関心を示さなかった。今思うとすごく頭がかたかったんだろう。

それから後にアコースティック系の音楽を聴き漁っていた時に、James Taylor(以下JT)という素晴らしいミュージシャンに出会う。
james-taylor2
JTはビートルズのレーベル、アップルレコードの第1弾アーティストでもある。
JTの音楽の良さはその素晴らしい歌声もさることながら、独特のギター奏法に特徴がある。
ローコードのDのギターフォームで、1弦の開放弦でE(9th)の音を鳴らしながらベース音をグイグイ動かして行き、トップノートや、開放弦の音を絡めながら、美しい響きを作りだす。
僕は初めてギターをコピーすることに夢中になった。それまでは特にギターをコピーしたことはなかったのだ。
このJTの奏法というのが、チューニングこそレギュラーチューニングを使っていたが、コードというよりはベースラインと3度の音を抜いた開放弦との組み合わせの響きで、それがある種のオープンチューニング的発想だった様な気がする。

そして、ちょうどそれ位の時期に、私は沖縄へ行くことになる。
そこで三線という楽器を習う機会があった。
三線は文字通り弦が3本の楽器で低音側から度数で言うと、
515
真ん中の弦が主音でそれを5度の音で挟んでいるという構造。言うならば、3度の音のないオープンチューニングだ。
弾き方の特徴としては、基本は歌とのユニゾンで弾きながら開放弦の主音を鳴らして、合間にオブリガードを入れるといった具合。
それよりも、面白かったのが、三線を手にしてから、今まで好きだけどギターでは絶対に弾くことのなかった、赤とんぼ、シャボン玉などの童謡や、Stephen Foster(フォスター)の曲(オースザンヌ、草競馬など)を次から次へと自分が弾いていることだった。逆に、ギターで弾いていたビートルズのポップスなどのコードで構成された曲は不思議と全く出てこない。これは一体なんだろうと思った。
その時は分からなかったけど、今思うとそれがオープンチューニングとの根本的な出会い。コードで構成されていない世界との出会い。
きっと調弦が5度感覚で構成されていたからだろう。
トラッドに対する自分の感覚に気付いたのもこの頃。

それが、沖縄の滞在が終わってからは、都会の暮らしに戻り不思議と三線も触らなくなるが、おおはた雄一さんのライブを偶然聴きに行って、Bob Dylanの『Blowin in the wind(風に吹かれて)』をカバーしていて、それが演奏しながらオープンにチューニングを変えていくというとてもかっこいいもので、これは一体どんなチューニングなんだろうと思ってそれを音を採った所、オープンDだったのだ。
そこで、僕はオープンDを使い始めた。
弾いているとまた不思議な感触があって。ギターを手にしていると弾いたこともない曲を次から次へと弾き始めていた。
ああ、これはと三線をはじめて弾いた時の感覚を思い出した。あれもオープンチューニングだったのかと。

こうして、僕は計らずも、Joni Mitchell、三線、JT(Dフォームという意味で)、おおはた雄一さんという点がオープンDという一本の線で繋がったのだ。
あとで考えると、岸部眞明さんの『雨降る窓辺で』という曲がとても美しいなと思ってそれがオープンDだったことも大きかった。

ここまでは、オープンDに至る話。
そこから、私の現在のチューニングへの変遷を書く。

オープンDを弾き始めた時に面白かったのが、無意識に自分が色々な旋律を弾きはじめていたことだ。
それは自分が今まで弾いていた様なポップスの曲などではなく、小さい頃から聴いて来た音楽、もしくは意識して音楽として聴いたりはしなかった音楽。
言うならば、自分の中の無意識の部分がひょっこり顔を出した瞬間だった。あとは、やっぱり開放弦で成り立つ響きが気持ち良かったのが大きい。指1,2本で気持ち良い響きが出せるから。
けれど、弾いている内にふと違和感に出くわした。キーがDメジャー以外の曲を弾こうとすると、途端に気持ち悪い音が出て来る。
ここで、オープンDの構成音を確認してみる。
DADF#AD
(以降はすべて6弦からの表記)
151351
という、1度3度5度の構成音。
このチューニングで、例えばDmの曲を弾こうとするとF#(長3度)がぶつかることに気付く。
ああ、これでは不自由だということで、F#(長3度)をF(短3度)に半音下げる。
DADFAD
151短351
これで、DマイナーもDメジャーも弾けると思ったら、やはり短3度の音に因りマイナー感を帯びてしまうということで、
それでいっそのことと FをE(2度=9度)まで下げてみた。この時にこれだと思った。
とても気持ちの良い根源的な響きで、ああこれを求めていたのだという発見と深い感慨があった。
これを発見した時はとても嬉しかったことを覚えている。
DADEAD
151251
3度の音が9度(2度)の音になっている。そうすると、DメジャーもDメジャーマイナーも自由に行き来できる訳で、3度の音がないことはこんなに自由なものなのだと思ったもの。
ここから3度の音を意識的に抜く傾向が強まった。和音は1度と5度だけで、3度はオクターブ上の旋律が担当すれば良いのだと。
(※これはオープンボイシングというハーモニーの手法)
同時期に出会った渋谷毅さんの音楽も、左手は1度と5度の音をバーンと鳴らしていたのも大きな影響を与えた。ヴァイオリンはGDAEという調弦で共通音が多い。
メジャーかマイナーかを決めるのは旋律であって、開放弦だけではメジャーもマイナーも分からないというのが面白さだった。また、AEAの音だけを取り出すと、Dだけでなく、Aのコードも入れ子構造で含まれているなと。

ここからギターの探求に入るかと思いきや、私は若さ故の何とやらで演奏活動をやめ、実際にギターに触れる機会はほとんどなくなるけれど、このチューニングをDEADチューニングと名づけ演奏活動の代わり音律についての探求をはじめた。
この時に図書館などで物理振動学など色々な本を読み漁ったが、すごく参考になったのが、藤枝守さんの「響きの考古学(※現在は増補版)」。
hibikinokoukogaku
この本にはギリシャ時代にピタゴラスが音律を発見した過程や、倍音などなどについて書かれている。こんな本、自分以外誰も読んでないだろうなとその時は思っていたが、後に関西でギタリストYousei Suzukiさんとはじめて会った日に、「響きの考古学」とハリー・パーチの話で盛り上がり人生とは面白いものだと思った。
私が主にこの本から学んだことのひとつに、音は倍音の構成音にオクターブ、5度が含まれているということがある。
それは、DADEADチューニングに対する確信を強めた。
このチューニングでギターを弾きながら対位法という音楽的手法を試していた時に「宵待ち」という曲ができ、この旋律がドレミソドレミという4音でできたペンタトニックスケールの様な童謡的旋律だったことが僕の音楽観を大きく変えたと思う。
自分の中のトラディショナル的なものに改めて気付いたというのか、自分の中に音楽が響きがあったことに気付けた大きい出来事で、救われるというか、言葉にし難い感覚だった。
音楽は新たに見つけるものでなく、もう既にあるもので、どうやってそれに気付くかだと思うようにもなった。

そこから、僕はソロギターの探求を深める。ソロギターというのはギターの独奏で曲を奏でることだ。
ソロギターをやる時に一番大事なのはメロディ。それから、ベース音だと思っている。コードは必ずしも必要だという訳ではない。
この辺りの考え方は、ギタリストMartin Taylorから沢山のヒントを得た。
そのベース音を弾く時に、世の中にあるポピュラーミュージックではとにかく1度から4度、4度から1度に行くことが多いのですが、それが開放弦で楽にできるように、Aの音をG音に下げるようになった。
DGDEAD
141251
6弦の5フレットを押さえてGを鳴らすより、開放弦で鳴らせた方が楽です。5度にあたるA音は5弦2フレットで鳴らせる。
この辺りで僕のチューニングの骨格はほぼできあがった。
それからようやく色々な曲を演奏するようになるのですが、ここで出て来るのが、
渋谷毅さん、Nick Drake、青いプランタンの音楽。
この辺りの人がCの曲が多かったので、ミーハー心により私もCまでチューニングを下げた。
CFCDGC
また細胞文学では黒田誠二郎(ゆすらご)さんがチェロを弾くのだが、チェロはCGDAというチューニングでそれになぞらえたというのもあるし、Nick Drakeの変則チューニングCGCFCEも影響している。
このチューニングかなり弦のテンションが低くなるので、ハナバッハ社のスーパーハイテンションという恥ずかしい名前の弦のセットを使っていたことを告白します。3弦のナイロン弦はチューニングを下げるとあまりに音がずれるので4弦の巻弦を張っていた。
Cまで音を下げるのは、声との関係性もある。ハーモニーのアレンジメントにおいて、私は割と古い考えを持っていて旋律はハーモニーのトップであるべきだと考えている。
私は声が低いのでそれに合わせてギターの音を下げる訳です。沖縄の三線も声に合わせて自由にチューニングを変えるそうだし、調律はもっとフレキシブルであって良いと考えている。
2009年頃にYousei Suzuki氏という存在に出会ってから、再び演奏活動をするようになって、と最近まではこのチューニングが私の中でスタンダードになっていた。

それから7弦バスギターを入手してまたチューニングが変わる。
通常の7弦ギターのチューニングが、BEADGBE だが、この7弦バスギターは初めは高音域に5度上の弦が欲しい、つまり12フレット辺りの高音域の音をローポジションで弾きたいという考えで手にしたギターなので、
BEADGBEというチューニングから全音半下げて、1弦は7度から数えて5度上の音を足して、
ADABEAE というチューニングとなった。
1412515
それで、しばらく弾いてたのだが、
ここからDのキーを弾く時は5カポだと低音が薄くなるのでせっかくのバスギターがもったいない。
そこで、どうしたかというと、7弦を4度の音のGに下げて、4弦を1度のDの音に上げて、1弦をDに下げてみた。
すると、どうでしょう?
GDADEAD
4151251
以前使っていたDADEADチューニングの下に、ローG(4度)を足した形になっていた。
何とまあ、全く遠くまで来たかと思っていたら、何のことはない元のチューニングに帰って来たのだ。
お釈迦さまの手のひらの孫悟空。
言うならば、オープンD9系の変則チューニングだろうか。
開放弦でベース音の1,4,5度の音が使えるのでとても楽。楽にできるのならそれが一番良い。

それから、ふたつの変化があった。
一つは、
FCGCDGC
4151251
というGDADEADを全音下げたチューニングに落ち着いた事だ。
というのは、6弦時代に使っていたのが、Cチューニングであったので馴染みがあったという所もある。
ギターの構造上カポなどを使ってキーを上げる事は容易だが、下げることはできない。
例えば、渋谷毅さんが弾くDanny BoyのキーはD♭です。この曲であれば、Cチューニングの場合1フレットにカポを付けることで対応することができる。Dの曲は2フレットにカポで対応できる。
また7弦の開放弦で4度、5弦の解放で5度の音が使える。

それから、もうひとつチューニングが生まれた。
FB♭FCFGC(1415125)というチューニング。
これはどういう発想かというと、7弦のFを主音として使う場合に開放弦で4度のB♭の音が使いたい。またD(6度)の音が邪魔、という理由から太字の弦だけ変化させている。

まとめると、現在7弦のチューニングは以下の2パターンを利用していることになる。
どちらも共通項としてオープンチューニングの3度の音は抜いたもので、かつ低音弦に4度の音を含んでいる。

1つは
EBF#BC#F#B(4151251)、
これは6弦Cが主音のチューニング。私の中のレギュラーチューニング。
現状はこちらは主にソロ、Lavender Pillow、コハクで使用。

2つめが
EAEBEF#B(1415125)
これは7弦のFを主音にした場合のチューニング。低音より。
こちらは主にマイセスで使用。

今後個人的にギターでやってみたいことは、8弦ギターとフレットレスギター、ラップスチールギター。
ギターの弦は6本だとかレギュラーチューニングでないといけないという決まりはないし、フレットがなくても良いんじゃないかと思っている。むしろフレットから自由になって、これだという1音を探す方が音楽的だ。
今後、変則チューニングや、多弦ギターを使う人がもっと増えて行くと面白いだろうなと思う。
8弦ギターで気になっているのはイギリスのPaul Galbraithという人。この方のギターはチェロの様にエンドピンを仕込んでそれを共鳴板の上に置くことで音響的に豊かな響きを作っている様だ。
フレットレスギターはトルコ辺りに気になっている人がいる。Erkan Oğurという人。中東の辺りでは面白い弦楽器が沢山ある。
また、中川弦楽器工房の方と知り合うことができたので、いつか自分の構想する楽器をオーダーしたいと思っている。

参照サイト
・Alternate Tunings for Guitar
http://sethares.engr.wisc.edu/alternatetunings/alternatetunings.html

・Nick Drake Home page
http://www.algonet.se/~iguana/DRAKE/tunings.html